2021年3月8日月曜日

 「存在論としての漱石論」(5)


夏目漱石は、「維新の志士」たちのように、命懸けで 文学をやりたいと言っている。それは「英文学としての文学」ではない。漱石は、「英文学者」になろうとしてなれなかった人である。何故、なれなかったのか。漱石に、学者としての能力がなかったから、なれなかったのか。無論、そうではない。では、何故 、なれなかったのか。漱石の有名な言葉に、「英文学に欺かれたるが如き不安の念」というのがある。これは、東京帝国大学の講義ノート『 文学論』の中の言葉である。漱石は、東京帝国大学講師を辞めて、作家として、朝日新聞に入社した。漱石が東京帝国大学講師という職を投げ出して、新聞社の社員となった背景には、「怒り」があったはずである。