●『夏目漱石』論と『小林秀雄』論(6)(『江藤淳とその時代』)
江藤淳は、『小林秀雄』論の「あとがき」の中で、
「小林秀雄の文学観を批判しつくしたいという野心が私になかったわけではない。だが、文学観の批判がいったい何であろうか。このように赤裸々な心を開いて私の前に立っている一人の人間の存在の重さにくらべれば。」
いうまでもなく、「小林秀雄の文学観」とは、一種のイデオロギーである。小林秀雄の頭に浮かんだものを体系化したものである。言い換えれば、小林秀雄の言うところの「 様々なる意匠」の一つである。もちろん、それも大事だろう。しかし、もっと大事な、もっと本質的なものがあるだろう、と江藤淳は、言おうとしているのだ。それが、「 私の前に立っている一人の人間の存在の重さ」という問題である。